「次郎吉」2010年05月27日 14時03分

 写真展の搬入の帰り途、かねてから行ってみたいと思っていた、俊徳道駅前の「次郎吉」へ行ってきました。ここは、去年の大阪写真月間に作品として出品した一枚の被写体になったお店です。

 その作品がこれです。


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 味わい深いお店でしょう?

 初めてこのお店を見かけたのは2008年の春でした。おおさか東線が開業したので、八尾の巨大SCにあるレゴブロックの専門店へ行くべしで、JR俊徳道から近鉄俊徳道への乗り換えの際にであったのです。その時はデジカメすら持っていなくて、携帯で撮影した映像がこれです。



 船の舳先のように尖っている建物、「右近橘」とかかれた渋い看板、そして建物と看板のヤレ具合、素晴らしいものです。

 とにかくその時は「この店に灯りが入っているところを撮りたい」と写真のことしか考えていなかったもので、お店で一杯飲むなんて事は頭の片隅に追いやられていました。でも、早いうちに行きたいとは思っていました。

 遙々そのチャンスが巡ってきて行ってみると…



 え…

 なんと、看板は外されているわ灯は消えてるわ、で、戸に張り紙がしてあります。読むと、昨年いっぱいで、駅前再開発のためここは閉店し、近くの新店舗で営業とあります。残念、この建物で飲むことは永遠に叶わないこととなってしまいました。しかしこのままでは済まされないと、新店舗目指して歩き始めました。

 多少うろうろしてたどり着いた新店舗ですが…



 旧店舗以上に入りにくい雰囲気です。

 意を決してがらがらと戸を開けて入りますと、こぢんまりした、常連さんでいっぱいの楽しげな雰囲気、さっそくそんなところへ割り込ませてもらって、右近橘と肴を注文し、その輪の中に入れてもらいました。

 僕は「一期一会」なんて言う気障ったらしい訳知り顔の鼻持ちならない言葉が大嫌いでしたが、自分が撮影した場所や建物が、あっというまに手の届かないところへ行ってしまうことをこれだけなんども経験すると、その言葉の真実味を感じずにはいられません。今も一期一会と書くのにも口にするのにも些かの抵抗がありますが、その言葉の存在は自分の中でどんどん大きくなってゆくようです。

 松本零士の戦場まんがシリーズの中に「死神の羽音」という一編があります。二次大戦中の日本軍戦闘機操縦士のお話で、出撃する度に自分だけが無事で帰ってきてしまう、自分には死神がついているのか?と問う主人公に、敵の機銃を受けて瀕死の女性が答えます「死神はあなた」。
 自分の好きなものが、フィルムに収めた途端に次々消えてゆくのを目の当たりにして、時々このお話を思い出します。

 ともあれ、「次郎吉」は無くなった訳じゃありませんし、新店舗もいい雰囲気でしたので、再びこの店に行ってみたいと思います。

 看板の「右近橘」というお酒は、奈良の飛鳥にある「脇本酒造」という小さな酒蔵で作られています。燗酒は美味しかったです。こちらの酒蔵もまた訪ねてみたいと思います。